おじいちゃん

母も父も、そして主人も「音楽」とは無縁だが、
唯一というか、身近で母方の父が、
ハーモニカの名手?!だったと母から聞かされたことがある。


このおじいちゃんは、すでに10年以上前に召されたが
100歳に手が届く、その時まで
まさに元気でしっかりしていた。
…とは言っても、
多少のボケと難聴…そして痔は持っていたが。


「痔」は持病で、入院していたことがあったらしい。
その時のエピソードで
ある日、オジが見舞いに行った。
その少し前におじいちゃんが歩き回って転んだ。
包帯を頭に巻いてベッドに横たわっている姿に
「今の痔の治療は頭からするのか」…。


傘も時計も靴も…あらゆる物を
おじいちゃんの所に持っていくと、たちどころに直ってしまう。
「何でも屋」としておじいちゃんは有名だったらしい。
母が子供の時、家は貴金属も扱っていたらしいが
兄弟が6人。大家族だったから、切り詰めた生活だった。
ある日、母が同じように貴金属を売っている店に行き、
値段が全く違うことを知って、おじいちゃんに言った。
「なんで、こんな安く売ってるの?
だからウチは貧乏なんじゃない!!貧乏なんて大キライ!」
すると、おじいちゃんは


「貧乏だ〜〜〜いスキ」。


いつのころだったか、田舎から東京に遊びに出て来たとき、
おじいちゃんの紐に付いていた財布が乗車中に盗まれた。
おじいちゃんが言った。
「こんな爺さんの紐を切ってまで欲しかったのだから
相当お金に苦しんでいたんだろう。だから、人助けになった」。
満面の笑みを子供心に未だ忘れられない。


そのおじいちゃん、亡くなる少し前に千葉に遊びに来た。
余生を「イエス・キリストに出会わせたい」と母の親孝行だった。
何日間か経って、「未だわからん。なんで馨子の家にいるのか」
何度説明しても、何日か経つと忘れてしまっていた。


私があまり聞こえなくなったおじいちゃんに
大声でイエス様の話しをした。
2時間くらい、声枯れ枯れ話し、
「だから、神様って凄いでしょ?」
「えっ!?すごい…」
「不思議でしょ?!」
「はっ!?不思議」
「わかった?」
「えっ?!」
「わかったでしょ?」
「…それが聞き取れなくて」
「だって笑ってたじゃない?」
「それは、馨子が笑った時に笑えば間違いがない」


私はそんなおじいちゃんが大好きだった。


そうそう、前にも話したけど、
牧師が、耳元でお祈りして下さった時、
「天のお父様…」
「はい。」(おじいちゃんじゃないよ!!)
「おじいちゃんの為にイエス様は十字架に架かり」
「ほう。それは知りませんでした」
いちいち祈りに答えるおじいちゃんに
笑いをこらいきれず、不謹慎にも笑い転げてしまった。


おじいちゃんの生き方というか考え方が
実にユニークで、まさに隔世遺伝かもしれない。


その後、おじいちゃんは帰り
数日して、オバの驚きの知らせの電話が入った。
その日以来キッパリとタバコを止めた…と。
「死ぬまでタバコを吸う!」と意気がって
ボヤまで出したおじいちゃんだったが。
それも、我慢している風ではなく、
おじいちゃんの顔にオジがタバコの煙を吹きかけると
怪訝そうな顔をしたらしい。


その後、
私と母は「最期であろう」おじいちゃんに会いに田舎に行った。
もう、言葉も話せなかった。
食事も自力で食べることができなくなって
食卓の席に座ることがやっとで
座っても、支えきれないのか、
テーブルのタオルにうっぷしてしまう。
背中が丸いので、寝かすのも一苦労。
上向きだと足を下げると起き上がり、
肩をつけると足がピョンと…まるでギッタンバッコン。
まるでお笑い…。


私は帰り際に、おじいちゃんに言った。
「1曲歌うね」
「安けさは川のごとく」を心から歌った。
すると
布団がパタパタと持ち上がった。
布団をはがすと、
おじいちゃんが横になりながら拍手していた。
オバが言った。
「馨子ちゃんの信じている神さまは凄いね」


ほどなくして、
エデンの園」という施設で
おじいちゃんは穏やかに天に召された。