「父との思い出」

私にとって「父」という存在は
とても大きかった。
弟が産まれる前は
父は私をよく引っ張って
いろいろな所へ連れて行ってくれた。
そう、大きく、温かだった手を思いだした。


幼い日を想う。


私がまだ学校に上がる前。
ピーピーと鳴るサンダルをお友達が履いていて
ある日、「買って」と父にねだった。
「一緒に買いに行こう」
ところが、歩く度、
音がするため、
周りにいる人が声をかける。
それがイヤで泣き出した。
父は口にくわえた爪楊枝を折って
サンダルの穴につめ、
音が鳴らなくなったサンダルを
履いている私の笑顔に
父は、ほほ笑んだ。


父と高尾山に登ったことがあった。
初詣に溢れる人々の中、
私の手は父の大きな手に
ギュッと握られた。
その手の中で蠢く汗がイヤで
何度も私は振り解こうとした。
でも、決して父は手を放すことを
許さなかった。
そのうち、わたしが熱を出したことに気付き、
私をおぶった。
温かい背中は汗になり、
「1,2」と父自ら声をかけ
リズムカルに動く、父の背中を
鮮明に覚えている。


思春期から大人になって
なんであんなに
「父」は煙たい存在となってしまったのだろう。
私に厳しかったのは
私の為、
私を思う気持ちだったのだろう。
また父と天で再会できる時、
たくさん「ありがとう」を言おう。